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21/11/02

IT点呼・実証実験、なりすまし防止などで突然の対応で難しさ

 国土交通省が拡大を目指すIT(情報技術)点呼。4月から運送企業にさまざまなIT機器を使って遠隔点呼を行ってもらう実験を開始し、8月で第1段階を終えた。IT点呼の確実性を評価するため、実験ではドライバーのなりすましをはじめ、イレギュラーな状況でも適切に対応できるかも確認しており、改めて課題も見えてきている。
 IT点呼の対象拡大は運行管理の高度化を目指す取り組みの一環。ICT(情報通信技術)を活用した多様な機器を点呼に役立てることで、運行管理者やドライバーの負担を軽減しながら確実に正しい点呼を行ってもらう環境整備につなげる。
 4月に開始した実験では、トラック、バス、タクシーの計7社が事前に評価方法を定め、対面点呼と同じく適切な運行管理を行えるかを確認することが柱。7月からは内容を一段階上げ、国交省がまとめたIT点呼で想定される複数の課題の中から、各社にわざとイレギュラーな状況をつくるなどしてもらい、問題点に気付き、適切に対応できるかの確認も行った。

別人と気付かないケースも

 このうち、課題が見つかった一つがなりすましの防止だ。例えば、運行管理者資格を持たない人が点呼を行おうとした場合、ドライバーが気付くかの確認では、事前登録した静脈認証で運行管理者を判別する機器の導入や、台帳の顔写真と見比べる対策を取ることで、異変を察知させた企業があった半面、ドライバーが未専任の運行管理者に気付かず点呼を受けてしまったケースもあった。
 予定のドライバーと別人が点呼を受けようとした際、運行管理者が問題に気付くかの確認でも、ドライバーが免許証を免許証リーダーにかざし、画面上で名前を名乗ったものの、運行管理者が本人と思い込んだため、なりすましを防止できなかった企業があった。運行管理者がドライバーにマスクを着けさせたまま点呼を行ったことも、判断に影響した。

健康把握で不安の声上がる

 またIT点呼での課題は健康状態の確認でも。例えば、ドライバーが手首や足をけがしたと想定し、運行管理者が異変に気付くかの検証では、全身が映るようにカメラの前で前進、後進させた企業でも、足を引きずる様子に気付くことができたケースとそうでないケースが見られた。
 健康状態では体温の異常は気付けたのに対し、血圧や脈拍などの異常には、ドライバーが納得できるような運行可否を判断する基準が必要との指摘が上がった。対面で確認できる臭いも点呼では重要な材料で、IT点呼の場合はドライバーの申告、表情、口調に頼らなければならず、精度の不安や判断に自信がないとの意見もあった。
 この他、当日運行する経路の危険箇所、道路混雑状況などの指示では、ドライバーに行ったアンケート調査で、対面の方が細かく内容を把握できたり、その場で質問をしやすいとの声が上がった企業もあった。
 国交省は10月から参加企業数を増やし、これまでと異なる機能、性能の機器を使った実験の第2弾を開始。結果を踏まえ、年度内をめどに、IT点呼を拡大する上で必要となる機器性能などの要件を固めていく。